『アーキテクチャの生態学』書評

要約

本書は2000年代の主要なウェブサービス(グーグル、ブログ、2ちゃんねるミクシィウィニーニコニコ動画等)を取り上げ、それぞれ独自の「アーキテクチャ」を設計している点に着目する。アーキテクチャとは元々「建築」や「構造」を意味する語であるが、筆者はネット上のサービスやツールをある種の「建築」とみなす、あるいはその設計の「構造」に着目する、という意味で用いる。今風の言葉で言い換えると「サービス設計によるユーザーのデザイン」だろうか。
例えばブログは「正しいHTMLを書く」という集合行動を規範ではなくアーキテクチャを通じて実現した。ブログ登場以前、日本ではHTMLのタグの記述を守らないユーザーが多かった。たとえは<h1>は「見出し」に使われなくてはならないが、ただ文字を大きくしたいという理由で使われていた。見出しとは関係のない情報がまじり、当時の検索システムに弊害を及ぼしていた。しかしブログを使えばHTMLに関する知識がない人でも自動的に正しいHTMLを発行する。
また、2ちゃんねるは巧みなアーキテクチャによって活発で衰えないコミュニティを実現した。例えば「匿名性」や「dat落ち」(一スレッドの最大投稿数を1000までに制限)は「常連を排除する」という設計思想の反映である。また、筆者は2ちゃんねるユーザーの連帯感をベネディクト・アンダーソンの「想像の共同体」に喩える。つまり顔も見たことのない「国民」と呼ばれる市民同士が、マスメディアを通じて互いにどこか仲間や家族のようだと感じてしまうことに近しい。

 

感想

WEBサービスの起業家として名高いけんすう氏の愛読書である。彼のセンスや知見を学ぶ一環として本書を購入した。直接にウェブサービス設計運営のノウハウを吸収し、役立てたい場合は本書よりけんすう氏のブログ記事をいくつか読むのが近道。
http://blog.livedoor.jp/kensuu/archives/54691064.html
とても面白い切り口だったが、対象のウェブサービスが古いのがネック。新しいWEBサービス開発に役立てたいのならば、少し前の現代書を読むよりインターネットで最先端の情報に当たったり、あるいは古典を丁寧に読んで教養を育むことを勧める。社会学的視点からWEBサービスを考察したい人には自信をもって勧められる良書である。